マンションの玄関を出ると、夏休みの子どもたちが
大きな木の下で虫とり網をかまえている。
セミを狙っているのである。
これもこのマンションに引っ越してからの夏の風物詩である。
そんな子どもたちを温かい目で見つめる私。
そして、「木を無理矢理、揺らしたりしないでね」と心の中で祈る私。
だって木を揺らしてセミが四方八方へセミが飛び出したら、
私は鬼と化し、「くそがき揺らすな!」と叫ぶに違いないもの。
やさしいわたしでいさせてね。

夏の風物詩というのは、音をともなう。
上述のセミの声も、風鈴も、花火だって。
どれも音だけフューチャーしたら、結構な音である。
これをやさしい気持で聞けるか、
あるいわ「うるさいな」と思うかすべては、
自分の余裕にゆだねられている。試されている。

先日、地下鉄の階段を上り始めようとした瞬間、
前にいたおじさんが突然叫んだ。「うっさいんじゃー!」と。
その前には、ピンヒールで階段を駆け上る女性。
おじさん、かなり虫のいどころがわるかったようである。
確かに階段を上るヒールの音は結構な音だ。
しかしこれも夏の風物詩だと思えば、
心穏やかでいれるじゃないか。

そう思いつつも、後ろから階段を上る私は
音がしないように足にグッと力を入れたら、
足つったやないの。