「‥‥おじい、熊がいる。手裏剣投げていいか?」

これを脈絡もなくいきなりいう先輩が高校のバイト先にいたという話を以前
「ほぼ日」の黄昏というコンテンツで糸井重里がしていた。

とてつもない破壊力である。私はイライラしがじめると、これを声に出して言ってみることにしている。
「だいぶと、おもしろい感じの自分」になれるのだ。

さて、枕文章と熊かぶせの本題。
私は昔からことあるごとに 「熊に襲われたら、叫んだり走って逃げたりしたらあかんねんで。そっと、そーっと後ずさりしながら離れていくねんで」とどこかで聞きかじった内容を、でももうこれは私の言葉となるくらい何度もこの熊対処法を人に教えている。

一番何度も私からこの熊対処法を聞いているであろう姉がとうとうこの前告白をした。
「昔から何度も熊対処法教えてくれたやんかぁ、教えてゆうてへんのに。そんなに何回も刷り込んでくれんでももうさすがに覚えたし、っていっつも思っててん、そんなアホちゃうでーって。その上な、あんた、いつもやたらと熱く語るから言わなかってんけど、その熊対処法を使うときって、生きてる間にあるやろか。ってずっと思っててん」と。

山登りが趣味でもないし、なんやったら一生山登りせーへんのちゃうの、というこの姉妹にとって熊から身を守る方法は、あまりにも使う可能性の低いものだった。
私はそのことにきずかず、意気揚々と何度も何度も「そーっと逃げるんやで、そーっとやで」と実践もまじえて教えてあげていたのである。

なんども聞いてくれてありがとう。
なんども言ってた自分が恥ずかしい。

しかーっし、どうも活かせる時がきたのかもしれない。
山から下りてくる熊が連日ニュースになっている。
時は熟した。

「スタコラサッササのサー」て逃げたらあかんねんで。「お嬢さんお待ちなさい」と熊に声をかけられても、「お嬢さん」の部分に反応したらあかんねんで。イヤリングはあきらめて、
そーっと、そーっと離れるんやで。