かねてから、しつこいほどに稲中(漫画『行け!稲中卓球部』古谷実/講談社)好きを一体誰に向かってのアピールなのかも我ながら不明だがアピールしている。

その出会いをふと思いだした。

もう何年も前になるが、母が大きな手術をしなければいけなくなった。それは8時間ほどにおよぶ手術で、家族としては不安で不安でしかたがなかった。

しかしながら、医師を信じてまかせるしかなく私たち家族には何ひとつできることはなかった。

ベッドに乗せられ、酸素マスクをし運ばれる母の姿は、非日常でより一層不安をかき立てた。

手術室に運ばれたあとは祈ることしかできず、ただただ待ち続けた。

しかし、その現場での8時間は長い。
私は気を紛らわそうとデイルームにある本を手に取ってみたものの、本好きとはいえ、こんな時にはまったく活字は目にも心にも入ってこない。

普段、漫画をほとんど読むことのなかった私であるが
そこでなんとなく手に取ったのが、『稲中』であった。

入ってこない。どころか
私が入っていってしまった。漫画の中に。

どれくらい時間がたったかわからないころ、
姉に「お母さん、戻ってきたで」と腕を引っ張られた。
母が戻ってきたことに気づかないほど夢中で読んでいたのだ。

姉いわく「めっちゃ楽しそうに笑ってたやん。私が腕引っ張ったときの“あっっ…”っていう申し訳なさそうな顔一生忘れへんわ」

これが『稲中』との出会いである。
これでいいのだ。