クロ、クロ、こっちこっち。
えらいねぇ、よちよちよち。

はーい、次お手ね。
えらいえらい、よちよちよち。

さあ、次はお散歩行こうね。

うんちとるのを忘れ
犬飼さんに怒られる。

ムツゴロウさんもびっくりの
猫っかわいがりである。

名前はクロ。
体が黒いから。
柴犬の子犬である。
バーチャルの。

両親の誕生日が近く
プレゼントに何を贈ろうかと考えあぐねていた。
旅行へ行く体力はないし
ドクターストップがかかっていて
おいしいものも食べたられない。
犬猫の「毛」ものもだめ。

そして苦渋の選択で思いついたのが
元来動物好きの両親に
DSの犬を飼うnintendogsをプレゼント。

ゲームなどをしたことのない両親に
まず自分が使い方を覚えてからと思い
クロを飼いだしたら、このざま。

たかが、ゲームの画面に出てくる犬に
声を出して(音声認識する)
犬の名前を呼ぶなんて
考えもしなかった。
「あ、ごめん」なんて普通にあやまったりする自分。

隣で見ていた姉たちは
「あほや~」と呆れているかと思いきや

「次わたし!」とばかりに羨望の視線をよこす。
姉に渡すと、音声認識のため
私がしつけたお手には反応せず
悔しがる始末。

あれ、意外とはまってる?

両親はそんな三姉妹に呆れ気味。

後ろ髪をひかれる思いではあったが
クロは実家に置いて私は帰った。

というより、一人の部屋で
クロクロ、と呼んでいる自分を想像したら
薄ら寒くなったのだが。

後日、父に用事があり電話を入れたら
「今、シャンプーしてブラッシングしてたんだよ」
(↑関西弁へた)
と嬉しそう。

このバーチャル空間の犬が精神衛生上
よいのか悪いのか知らないが
まあええか。大人やし。

そして私は
「じゃあ、クロよろしくね」という
今まで言った事のないセリフで電話を切った。

たぶん、かわいがられすぎの
ろくでもない犬に育つだろう。