朝から本町で午前中たっぷりの打合せを終えて、ビルから出てきたら、雨が振り出していた。降り始めらしく、傘がなくても駅までなら大丈夫くらいの小雨である。

そこを器用に私の横を自転車が疾走した。

ふとみると、そこそこ年配のサラリーマンのおじさまなのだが、それだけなら普通の本町の光景なのだが、そのおじさま、頭に半透明の大きなゴミ袋をかぶっているではないか。
一瞬、いったんもめんにでもとりつかれたのかと目を見張る。
それもたぶんご丁寧に、くびの部分に少し切れ目を入れて、しっかり顎の下で結んでいる。
そこには何かしらの強い意思が感じ取れる。

もちろんそれは、空気を含み、頭の上で膨らんでいる。

この、人が繰り出すランチタイムの本町で、この小雨をそこまでして回避しないといけない深い理由があるのだろう。
頭から黒いなぞの汁が流れ落ちるのかもしれない。

きっと彼は必要以上に、毎日天気予報を気にしているんだろう。
人にはいろんな事情があるものだ。

そのまま自転車が宙に浮けば彼も救われるかもしれない。
私は心の中で、彼の後ろ姿に向かって祈った。「跳べ!」と。